家族信託とは
「家族信託」とは、簡単に言うと、「いま財産を持っている人が信頼できる人に、自分の財産の管理や処分をする権限を託す」、という財産管理の仕組みです。
ある面では管理委託や委任に似ていますが、この家族信託という仕組みを使うことによって、従来の相続対策や財産管理の手法ではできなかった様々なことができる可能性が出てきています。
仕組みはシンプルです。財産を持っている人を「委託者」と呼び、管理を任せる、つまり託す財産のことを「信託財産」と言います。その「信託財産」を実際に管理してもらう人のことを「受託者」といいます。
そして、その財産から得られる収益を得る人のことを「受益者」と呼びます。家族信託の構造は、基本的にこの三者構造で成り立っています。
法制度上は、財産管理を担う受託者には「個人・法人」あるいは「専門家・素人」の誰でもなることができます。
家族信託はこの受託者に家族、親族が就くことで、「家族で財産の管理をしましよう」「一族でその財産を守っていきましょう」という仕組みを実現することを目的とします。
家族信託のメリット
家族信託には、広く知られている「委任契約」「成年後見制度」「遣言」の各機能の良い部分が含まれています。
それぞれの制度を利用するにはそれぞれに別の手続きを必要としますが、家族信託では、ーつの信託契約の中にそれらの機能を盛り込めることが最も大きなメリットと言えます。
つまり、契約締結とともに委託者は財産管理を受託者に委ねることになります。そして、その後、委託者が病気や事故、認知症等で判断能力を喪失したとしても、一切影響を受けずに受託者による財産管理が遂行できるため、成年後見制度の後見人による財産管理の必要かなくなる可能性かあります。
また最終的に、委託者の相続が起きた後、誰にどのような財産を遺すといった遺言で書くベきところを信託契約で遺しておくことで、託していた財産の承継先が指定できるため、遺言の機能も持っていると言えるのです。
平均寿命と認知症
これからの人生を考えた時に「認知症の発症」は現実的な問題「健康寿命から平均寿命」の期間において、個人差はあるものの、意思判断能力を喪失してしまうことによって、財産の管理や処分といった行為は原則できなくなります。
その最大の原因のひとつが「認知症」です。平成24年時点で65歳以上の高齢者のうち462万人が認知症と認定され、また、その予備軍も400万人と推計されています。
合わせて862万人にのぼり (平成27年厚生労働省資料)、高齢者人口の約4分の1となる計算となります。
今後もこの数は増え続けることが予測され、私たちの人生あるいは相続対策を考える際には、この認知症発症期間というリスクを必ず念頭に置いておく必要があります。
決して遠くない将来、認知症もしくはそれと同じレベルの「判断能力を失った期間」を迎えるとするならば、その期間には、あなたの資産は誰がどのように管理するのでしょうか。
現在、各所で行われている「相続相談」あるいは「相続対策」では、こういった視点が抜けてしまっています。
「平均寿命と健康寿命の差」が意味するもの
平成28年の厚生労働省の発表によると、平均寿命と健康寿命との差は男性 8.84年、女性12.35年となっています。
この期間は、身体上の問題、意思能力や判断能力の問題など、様々な理由で日常生活が制限される状態となることを意味しています。
これらはあくまで「平均値」であり、比較的その期間が短いケース(1年未満~3年程度)から長期(15~20年)の場合にいたるまでの平均となります。
特に高齢者の場合、身体的な障がいから意思判断能力の障がいへと連動する場合も多いので、資産の管理や処分に必要な「判断能力」を有する期間、いわばこの「健康寿命」を念頭に設計することが大切です。
成年後見制度とその限界
成年後見制度とは、認知症や病気、あるいは知的障害、精神障害等の事惰により、意思判断能力が万全ではない人の法律行為や財産の管理を本人に代わって行う制度です。
後見人は本人のために財産をしっかり守るという職務を負うことから、家庭裁判所もしくは後見監督人の指導・監督下に置かれます。
したがって、本人にとって本当に意味のある、合理的な理由のある支出しか認められず、推定相続人や、家族にメリットのあるような行為、例えば、将来の相続を見越して生前贈与や財産を整理・処分することは、基本的には認められません。
つまり、成年後見制度を利用している限りにおいては、柔軟な財産の管理は難しく、家族のための支出や、将来の相続対策を考えたくてもほぼ何もできません。また、たとえ本人のためであったとしても、積極的な投資や運用なども実行できません。
いつ検討すれば良いか
家族信託に限らず、家族の中で、相続や認知症になった場合を想定しての話題はなかなかしにくいものです。
親が認知症を発症してしまった後で、「家族信託は使えないか」という相談が多いのも事実です。
ですが、残念ながら認知症などによって意思判断能力を失ってしまった後では、いかなる契約行為もできません。
自分自身や親がまだ元気な時に、こうした話題は出しにくいでしよう。
しかし、唯一といってよい夕イミングは、下の図のとおり、実は限られています。
どんなに今は元気な人でも、ちょっとしたきっかけで 「将来に対する不安・心配」を感じるときは必ず来ます。
自分自信の相続や資産承継について、あるいは残された家族について考え始めるこの時期こそが、家族信託を検討する「最後の夕イミング」です。
この夕イミングは、人により到来する時期がまったく異なります。
まだ若く元気な時期からこうしたことを考える人もあれば、本当に身体の自由が利かなくなって初めて「不安」を感じる人もいます。
いずれにしても、「不安や心配を感じた夕イミング」が家族信託を検討する夕イミングです。
そして大切なことは、「検討するときは、しっかりと検討する」ということが必要です。
意思能力や判断能力が失われてしまうと、もはや手遅れです。
もし、本格的にその兆候が現れたならば即時に手が打てるようしっかりと検討し、今すぐ信託契約を実行せずとも、少なくともその準備をしておくことが大切です。